
元防衛相で前外務大臣の岩屋毅氏が、再燃する「スパイ防止法」議論や、かつて高市早苗氏が提案した「国旗損壊罪」について見解を示した。その発言がネット上で炎上状態となり、批判が殺到する異様な展開となっている。
岩屋氏はOBS大分放送の取材に応じ、スパイ防止法に関しては「法律の立てつけ次第」として慎重な姿勢を示したうえで、国旗損壊罪については明確に反対した。その理由として挙げたのが 「立法事実が存在しない」 という論点だ。
「日本で誰かが日章旗を燃やしたというニュースを見たことがない。立法事実がないのに法律を作れば国民への過度な規制になる」
この発言は「事実に基づかない規制はすべきでない」という、いかにも政治家らしい論理構築に見える。しかし、SNSではこの発言をめぐり猛烈な批判が噴出した。なぜ岩屋氏はここまで攻撃されるのか。
岩屋氏の「立法事実」論とは何か
国旗損壊罪とは、国旗を焼却・破壊する行為を刑事罰の対象とするもの。高市早苗氏は2015年頃に提案していたが、当時同じ党内で反対に回ったのが岩屋氏だった。
岩屋氏は取材に「日の丸が燃やされて大変なことになっている事実がない。だから規制する必要もない」「立法事実がないのに法案を作れば、国民の精神をどこかで圧迫する」と語っている。また、反対の際に「そんな法律案を出したら自民党が右傾化したと思われる」と発言したとされる件についても否定し、「そんな言い方はしていません。立法事実がないと言っただけです」とあくまで“法的根拠の欠如”を指摘しただけだと強調した。
こうした回答に、SNSでは猛批判が飛び交っているのだ。
SNSで批判が止まらない理由
岩屋氏のインタビューを巡り、ネット上では「国旗への冒涜を容認するのか」「売国奴ではないか」「反日勢力への迎合だ」「岩屋はいつも中国に甘い」「国旗や国家を守る気がないなら議員辞めろ」といった厳しい言葉での非難が相次いでいる。
つまり岩屋氏の主張は、「事実がないから規制は不要」という“法理”ではなく、「国旗軽視」「日本への敬意欠如」といった“感情論”の側で捉えられてしまっているのだ。
政治部記者はこう分析する。
「国旗損壊罪の議論は“安全保障”ではなく“アイデンティティ”に直結する。論理より感情が先に立つテーマで、岩屋氏は構造的に叩かれやすい立場にいる。さらに岩屋氏は、過去にも防衛・外交分野で“穏健派”と見られてきた政治家。ネット世論の一部が求める“強硬対応”と真逆のポジションにいることで、常に攻撃対象になりやすいのではないか」
「スパイ防止法」にも慎重姿勢
今回、岩屋氏が批判されている背景には、同時に語った“スパイ防止法への慎重姿勢”も影響している。「スパイ防止法は中身を見なければ賛成も反対もできない」「省庁ごとにすでに情報保護の法律は存在し、現行制度で十分対応できている」と語っている岩屋氏。さらに特定秘密保護法成立時の反対デモを引き合いに出し、「あの時“居酒屋で話したら逮捕される”と言っていた人たちは今みんな忘れている」とメディア批判も展開した。この発言が「慎重派=反対派」だと受け止められ、保守層の反論を一身に受けている格好なのだ。
批判されても黙る理由
ネット批判への対応について問われると、岩屋氏は「反論する価値もない言葉の投げつけ。対話する意思のない人に時間を使う気はない」と語る。
この“距離を取る姿勢”もまた、SNS時代の政治家像とはズレが生じている。炎上に反論せず距離を置くスタイルは、ネット世論の一部からは「逃げ」「無視」と受け取られやすい。
「SNS時代は“黙る政治家”が最も叩かれる。強く言い返すか、迎合するか、あるいは謝罪するか――いずれかを求められる。しかし岩屋氏は“議論の土俵に乗らない”タイプで、炎上がおさまるまで待つ姿勢を崩さない。このスタイルは本来、成熟した政治家の態度として評価されるべきだが、ネット世論はそれを許容しないだろう」(前出・政治部記者)
岩屋氏の言葉は、本人の真意にかかわらず、多くの保守層に「日本を軽視している」と響いている。今後の議論の進展に期待したい。
(松尾晶)