
コンプライアンスの荒波に揉まれ、すっかり牙を抜かれてしまった令和のバラエティ番組。だが、時計の針を昭和に戻せば、そこには「面白ければ何でもあり」という狂乱の時代があった。その象徴として語り継がれているのが、タレント・大竹まことが引き起こした「山瀬まみ号泣事件」だ。
当時、アイドルとして売り出し中だった山瀬を襲った悲劇。それは単なる暴走ではなく、芸人としての生き残りを賭けた壮絶なパフォーマンスだったという。
アイドルの衣装をビリビリに破く「狂犬」の所業
当時を知る放送作家が語る。
「事件が起きたのは、1988年に日本テレビ系で放送されていた『タモリのいたずら大全集』というバラエティ番組です。当時、大竹はシティボーイズの一員として破壊的な芸風で暴れ回る『狂犬』キャラ。一方の山瀬は、バラドルとして頭角を現し始めた頃。快活なイメージで人気を集めていた。収録中、大竹は山瀬に向かって「山瀬!お前、失恋したんだってな!」と不規則発言。これに山瀬は「してないよ!」と猛反発した。本番中に大ゲンカとなったのですが、ヒートアップした大竹は山瀬に掴みかかると、なんと彼女の衣装を力任せに引きちぎり始めたのです。ズボンをずり降ろされそうになった山瀬は号泣。さらに大竹はスタジオのセットを破壊する暴挙に出た。今のBPOなら一発アウトどころか、番組終了レベルの放送事故ですよ」
この事件は長らく大竹の「黒歴史」として語られてきたが、実はこの暴挙の裏には、彼なりの切実な事情があった。
「爪痕を残さなければ消える」
「当時の大竹が、ビートたけしや片岡鶴太郎といった天才たちに囲まれ、『何か爪痕を残さなければ消える』という強迫観念に駆られてたのは間違いない。あの暴力的な振る舞いは、自身の存在意義を証明するための悲しき防衛本能だったのではないでしょうか」(同作家)
この事件により、日本テレビは大竹を出演NGに。20年以上の間、出禁は続いたのであった。
(松尾晶)