
近年、テレビドラマ界で頻発している「原作改変」を巡るトラブル。
2023年末に起きた『セクシー田中さん』の原作者・芦原妃名子氏の急逝という痛ましい事件は、漫画家とテレビ局の間に横たわる深い溝を世に知らしめた。かつては『海猿』の佐藤秀峰氏がフジテレビとの絶縁を宣言するなど、クリエイター側の不満は常にくすぶっている。
なぜ、テレビ局は原作者の意向を軽視し、トラブルを繰り返すのか。その背景には、テレビマン特有の「漫画を素材としか見ていない」という傲慢な特権意識があった。
「漫画を“高尚なドラマ”にしてやる」という勘違い
ドラマ制作に携わる放送作家が内情を明かす。
「根本にあるのは、テレビ局員の『ヒエラルキー意識』です。彼らの多くは、漫画やアニメを一段低いサブカルチャーと見なし、『俺たちが実写化することで、漫画を一般層向けの“高尚なエンタメ”に昇華させてやる』という無自覚な上から目線を持っています。だからこそ、『ドラマ的に分かりやすくする』『予算の都合でキャラを変える』といった改変を、原作者への“改善案”だと本気で信じている。原作者が『キャラの性格を変えないで』と訴えても、彼らには『素人がプロの脚本作りに口を出すな』というノイズにしか聞こえないのです」
また、制作スケジュールの構造的な欠陥も拍車をかけている。
ドラマ制作は放送開始の数ヶ月前から走り出すが、脚本が完成するのはギリギリになることが常態化している。
原作者は「著作者」ではなく「面倒な地主」扱い
同作家が続ける。
「プロデューサーにとって最優先事項は、主演俳優のスケジュール確保とスポンサーへの納期厳守。原作者の確認作業は、彼らにとって『進行を遅らせるボトルネック』でしかありません。現場では、原作者からの修正要望を『地権者のクレーム』程度に捉え、『適当になだめておけ』と出版社に圧力をかけるケースも珍しくない。しかし、今の漫画家はSNSで直接ファンに発信できる力を持っています。『海猿』や『セクシー田中さん』の件で明らかになったように、テレビ局の裏切り行為は即座に可視化され、炎上する。昭和の感覚で『先生』面をしているテレビマンだけが、時代の変化に気づいていないのです」
Netflix版『ONE PIECE』のように、原作者が制作総指揮として関わる成功例も出てきた昨今。
「実写化していただく」から「実写化させてやる」へ。力関係が逆転したことに気づかないテレビ局は、やがて有力なコンテンツから見放されることになるだろう。
(松尾晶)