かつて「フェラーリで乗り付けるような」二枚目役しか与えられなかった男が、今や日本を代表する名優となった。その道程は、栄光と挫折の波乱万丈そのものだ。
モデルとして頂点を極めた阿部寛は、俳優転身後、想像を絶するスランプに陥る。背が高すぎて共演女優とのツーショットが撮りにくいという理由でドラマの仕事は激減。軽率な言動がプレイボーイ扱いを招き、仕事は干され、ついにはパチンコで生計を立てるまでに追い込まれた。借金まで背負い、バラエティ番組の「あの人は今!?」の捜索対象にされるという屈辱まで味わう。まさにどん底の日々である。
しかし、その逆境が阿部寛を変えた。古武術を始め、肉体と精神を鍛え直す。端役であっても高倉健の共演を志願し、役所広司との共演を果たす。1993年、つかこうへい演出の舞台『熱海殺人事件』でバイセクシュアルの刑事を演じ、その演技力が業界に衝撃を与えたのだ。これが大きな転機となる。
以降、NHK大河ドラマへの出演を重ね、時代劇での存在感を確固たるものにしていく。『八代将軍吉宗』から『義経』『天地人』まで、重要な役柄を次々とこなす阿部寛は、もはや「元モデル」の枠を完全に脱却していた。そして、その先に待っていたのは、国民的ヒット作の連続である。
基本プロフィール
| フリガナ | あべ ひろし |
|---|---|
| 生年月日 | 1964年6月22日 |
| 出身地 | 神奈川県横浜市神奈川区 |
| 身長 | 189cm |
| 血液型 | A型 |
| 所属事務所 | 茂田オフィス(-2023年)・オフィスA(2023年-) |
| ジャンル | 俳優、モデル |
生い立ち・デビューまでの経緯
彼はかつて、車が欲しいという理由だけで応募したコンテストで、日本のファッション界を揺るがすカリスマモデルになった。阿部寛のデビューは、まるで青春映画の一シーンのようだ。中央大学の理工学部生だった1985年、姉に勧められて「ノンノボーイフレンド大賞」に応募し、見事優勝を勝ち取る。優勝賞品の車目当てだったというから、本人の意図せぬところで、運命の歯車が回り始めた瞬間だった。
『ノンノ』『メンズノンノ』の表紙を飾り、一躍時代の寵児となった彼は、1987年に映画『はいからさんが通る』で俳優デビューを果たす。しかし、華やかなモデル時代のイメージは、逆に重い十字架となってのしかかることになる。「フェラーリで乗り付けるような」二枚目役ばかりが舞い込み、190cmを超える長身は共演女優との画面バランスを崩し、仕事は次第に遠のいていった。
転機は、あるバラエティ番組の「あの人は今!?」コーナーで、かつてのスターとして“捜索対象”にされてしまったことにあった。世間から忘れ去られかけているという現実が、彼の背中を強く押したに違いない。そして、高倉健主演のNHKドラマ『チロルの挽歌』に、名前もない端役でいいからと自ら出演を志願した。巨匠の息吹に触れ、何かを掴みたいという、俳優としての渇望がそこにあった。
ブレイクのきっかけ・代表作
あの高身長と端正な顔立ちが、かえって俳優としての道を狭めた男がいた。阿部寛である。モデルとして一世を風靡した彼は、やがて「背が高すぎて共演女優と画面が収まらない」「二枚目役しか来ない」という壁にぶつかり、仕事は激減。ついにはパチンコで生計を立てるほどの不遇の時代を迎える。かつてのカリスマモデルが、バラエティ番組で「あの人は今?」と探される対象にまで転落したのだ。
その転機は、自らを徹底的に貶める役だった。2000年、『TRICK』で自らのモデル時代の写真を自虐の道具として使い倒し、三枚目を演じきったのである。これが大ヒット。かつてのイメージを逆手に取ったこの演技が、彼に新たな活路を開いた。そして、2012年の『テルマエ・ロマエ』で古代ローマの技師ルシウスを演じ、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞に輝く。硬派なイメージとコミカルな演技を融合させ、唯一無二の存在感を確立したのである。
モデル時代の栄光と挫折、そして俳優としての再生。阿部寛のキャリアは、単なる成功譚ではない。外見という呪縛を、自らの演技力で打ち破った男の、したたかな生き様そのものなのだ。
出演作品
| 公開・放送開始年 | 作品名 |
|---|---|
| 2025 | イクサガミ |
| 2025 | 俺ではない炎上 |
| 2025 | キャンドルスティック |
| 2025 | キャスター |
| 2025 | 水平線のうた |
| 2025 | ショウタイムセブン |
| 2023 | VIVANT |
| 2023 | どうする家康 |
| 2022 | 続 遙かなる山の呼び声 |
| 2022 | すべて忘れてしまうから |
| 2022 | 異動辞令は音楽隊! |
| 2022 | とんび |
| 2022 | DCU |
| 2021 | 護られなかった者たちへ |
| 2021 | HOKUSAI |
| 2019 | 夕霧花園 |
| 2019 | 新春ドラマ特別編 下町ロケット |
| 2018 | 遙かなる山の呼び声 |
| 2018 | 祈りの幕が下りる時 |
| 2018 | のみとり侍 |
| 2018 | 北の桜守 |
| 2017 | 空海-KU-KAI-美しき王妃の謎 |
| 2017 | 海辺のリア |
| 2016 | 疾風ロンド |
| 2016 | スニッファー 嗅覚捜査官 |
| 2016 | 恋妻家宮本 |
| 2016 | 海よりもまだ深く |
| 2016 | エヴェレスト 神々の山嶺 |
| 2015 | 下町ロケット |
| 2015 | 一番電車が走った |
人物エピソード・逸話
車が欲しいだけの軽い気持ちで応募したコンテストが、阿部寛の人生を劇的に変えた。
中央大学の理工学部生だった1985年、姉に勧められ「ノンノボーイフレンド大賞」に応募して優勝。賞品の車を手にした彼は、カリスマモデルとして一時代を築く。しかし、その美貌と「モデル出身」のレッテルは、俳優としての道を思いのほか狭くした。「フェラーリで乗り付けるような」二枚目役しか回ってこず、背が高すぎるという理由で仕事が激減。ついにはパチンコで生計を立てるほどに落ちぶれ、バラエティ番組の「あの人は今!?」の捜索対象にされるという屈辱まで味わう。
転機は、絶望の底から訪れた。役者として一念発起し、端役にも貪欲に食らいついた。1994年には憧れの役所広司との共演を果たし、『凶銃ルガーP08』などで日本映画プロフェッショナル大賞・特別賞を受賞。しかし、真のブレイクは、自らのイメージを逆手に取った自虐役からだった。2000年『TRICK』で、かつてのモデル写真を笑いのネタに使い尽くす三枚目ぶりが観客の心を掴み、一気に再浮上する。
そして2012年、『テルマエロマエ』で古代ローマの技師を演じ、ヨコハマ映画祭、ブルーリボン賞、日本アカデミー賞と主演男優賞を総なめにした。理工学部で学んだ知識が、役作りの深みに活かされたと言えば、意外な伏線回収だろう。2022年にはニューヨーク・アジアン映画祭でスター・アジア賞を日本人初受賞。かつての「プレーボーイ」イメージは、台湾・花蓮地震の際に1000万円の義捐金を手渡しするような、誠実な人間味へと昇華されている。モデルから俳優へ、そして単なるスターから、時代を映す名優へ。その変貌の軌跡こそが、阿部寛という男の最深部にあるのだ。