
かつてアジアの音楽シーンを牽引していた「J-POP」。
しかし、現在その座は完全に「K-POP」に奪われ、世界市場はおろか、日本の若者たちさえも韓国アーティストに熱狂している。ビルボードの「Hot 100」で1位を獲得したBTS(防弾少年団)や、同「World Albums Chart」で7週連続1位を記録したNewJeans。「コーチェラ・フェスティバル」に出演したBLACKPINKなど、押しも押されぬ国際的スターが韓国に揃う。
歌唱力、ダンス、映像クオリティ……あらゆる面で水をあけられた感のある日韓のエンタメ界だが、なぜここまで差がついてしまったのか。
そこには、才能の差などではなく、国家レベルでの「戦略の有無」という絶望的な壁があった。
「内需」に甘えた日本、「外需」に賭けた韓国
韓国のエンタメ事情に詳しい音楽プロデューサーが解説する。
「決定的な違いは『市場の捉え方』です。日本は世界2位の音楽市場を持っており、国内でCDやグッズを売るだけで十分な利益が出る。そのため、事務所は日本語で歌い、日本のファンにだけ受ける『ガラパゴスなアイドル』を量産し続けました。対して韓国は国内市場が小さく、最初から『海外で売れなければ死ぬ』という危機感があった。だからこそ、国策としてエンタメを輸出品と位置づけ、徹底した英語教育や、世界トレンドを取り入れた楽曲制作に莫大な予算を投じてきたのです。日本が『握手会』でCDを売っている間に、韓国は『YouTube』で世界を獲りにいった。この20年の戦略の差が、今の残酷な実力差となって表れているのです」
また、育成システムの違いも深刻だ。未完成さを愛でる日本のアイドル文化に対し、韓国は数年間の過酷な練習生期間を経て、完成されたプロフェッショナルしかデビューさせない。
「クールジャパン」という名の虚構
同プロデューサーが続ける。
「日本政府も『クールジャパン』などと旗を振りましたが、中身は利権がらみのバラマキに終始し、現場のクリエイターには還元されませんでした。一方、韓国政府は文化体育観光部が司令塔となり、K-POPフェスの開催や海外メディアへの売り込みを官民一体となって推し進めてきた。BTSの世界的ヒットは偶然ではなく、国家プロジェクトの勝利なんです。最近になって日本の事務所もグローバルグループを作ろうと躍起になっていますが、ノウハウもパイプもないため、結局は韓国のプロデューサーに頼らざるを得ない。もはやJ-POPは、K-POPの下請け市場になり下がろうとしているのが現実です」
国内の「推し活ビジネス」に安住し、世界を相手にできない日本のエンタメ業界。そのツケを払わされるのは、世界基準のエンタメを知らずに育つ次の世代なのかもしれない。
(松尾晶)