全国で相次いでいるクマの出没。11月に入り、大阪のベッドタウン・茨木市でも目撃情報が5件連続するなど、我々の生活を脅かしている。
安全を確保するため、クマの駆除が急がれるなか、社会問題化しているのが自治体などに「クマを駆除するな」と抗議電話をかける「クマ駆除クレーマー」の存在だ。北海道で66頭の牛を死傷させた凶暴なヒグマ「OSO18」が今年8月に駆除されて以来、北海道庁など自治体にクレームが殺到。ハンターへの誹謗中傷も相次いでいる。
そんななか、11月12日に「野生生物と社会」学会が緊急声明を発表。配慮を欠いたクレームは「かえってクマとの共存を妨げる結果を招きます」と明言した。
「野生生物と社会」学会「北海道のヒグマ、東北・北陸地域を中心としたツキノワグマの大量出没について(緊急声明)」全文
以下、同会の「北海道のヒグマ、東北・北陸地域を中心としたツキノワグマの大量出没について(緊急声明)」全文
北海道のヒグマ、東北・北陸地域を中心としたツキノワグマの大量出没について(緊急声明)
1.出没要因について
今年度の秋の大量出没の直接の要因は、ブナ科堅果類の大凶作によるものですが、これまでにも大量出没は2~4 年程度に1度発生し、近年では出没の規模が大きくなってきました。
その背景には、過去10 年ほどの個体数の増加と分布の拡大、それにともなう市街地周辺における個体数の増加、集落環境にある食物資源(主に柿などの放置果樹)への依存度の進行などがあります。個体数増加と分布域拡大の原因は、里地・里山の環境の変化などいくつかありますが、2000 年以降様々な形で個体群に対する捕獲を抑制する政策(個体数の増加か現状維持を図る政策)が執られたことも大きな要因です。
2.対策について
短期的には、①市街地周辺での捕獲と②不要果樹の伐採等の管理が必要です。人の生活圏に不要果樹などクマ類の餌となるものを放置する限り、クマ類を誘引してしまいます。
中・長期的には、各地域の状況を踏まえ、必要な地域では分布域と個体数を一定レベルまで縮減し、人との軋轢の減少を図りながら持続可能な水準で個体群を維持することが求められます。そのためには個体数推定等に必要なデータ蓄積(モニタリング)と、行政による管理体制の構築、確かな技能を備えた捕獲従事者の確保が必要です。これらの対策を具体化するための検討を早急に進めるべきです。
3.対策にあたる関係者への配慮についてクマ類を持続的に保全管理していくためには、クマ類が生息している都道府県、市町村で対応にあたる行政関係者や従事者、地域の人々といった関係者を応援することが必要です。
クマ類は四国の個体群を除き、危機的な状況にはありません。狩猟や有害捕獲も含め年間3,000 頭~7,000 頭が捕獲されている中でも個体数は増加していると考えられています。クマ類は人との軋轢も大きく、付き合い方を間違えれば人命を奪うこともあり、一定数の捕獲は欠かせません。クマ類との共存のためには、人の生活圏に侵入した個体や再出没が懸念される個体は捕獲すること、さらには、人の生活圏には侵入させない対策は必要不可欠です。愛護だけでは、地域社会のみならずクマ類の個体群をも守ることができません。
現場で対応にあたっている関係者は、大量出没に直面してクマと人との共存を実現するために苦渋の選択をしています。関係者への配慮の無い電話や執拗なクレームは、関係者の努力をくじき、かえってクマとの共存を妨げる結果を招きます。現場の関係者への十分なご配慮をお願い申し上げます。