『孤独のグルメ』の最初の一口はどう撮る? 松重豊が明かした食事シーンの準備
五郎がおいしそうに頬張る一口目。その表情を撮るため、松重豊は空腹で撮影に臨んでいた。2017年の会見と2023年の対談で明かされた、食事シーンと心の声ができるまで。

『孤独のグルメ』で、井之頭五郎が料理を口に運ぶ瞬間。あのおいしそうな表情を撮るために、松重豊は実際に空腹の状態で撮影へ臨んでいた。2017年の『Season6』の会見では、スタッフが昼食を取る間も食べずに待ち、最初の一口を迎えていると明かした。
松重がその会見で挙げた撮影の目安は、1話に2日間。そのうち1日が食事を撮る日で、朝から店に入っていても、本人が食べ始めるのは午後2時半から3時頃だったという。画面ではふらりと店に入り、料理を楽しむ五郎だが、その一口に至るまでには待つ時間があった。
一口目の感動を撮り直さないために
大事なのは、食べ始めた瞬間の反応だ。初めて味わった時の感動は、失敗してやり直せば同じようには取り戻せない。松重はそう説明し、その瞬間を収めるために撮影陣も気を配っていると語った。空腹を演じる前に、自分自身がおいしいと感じる状態をつくっていたわけだ。
会見で松重が強調していたのは、主役は自分ではなく料理だという考えだった。スタッフが探した店の料理を食べ、そこで感じた幸福を映像に残す。五郎の食べっぷりを支えるのは、俳優一人の表情の作り方だけではなかった。
同じ皿を食べ進め、感想を心の声へ
2023年9月に公開された対談では、食べる場面の撮り方も詳しく語っている。松重によれば、一般的なドラマでは編集でつなぐため、料理を交換して少し前の動作から撮ることがある。これに対し『孤独のグルメ』は、いったん撮影を止めても同じ皿を使い、食べた続きから次のカットを撮っていくという。
何度も練習で食べてしまえば、新鮮な反応は薄れる。一口目に限らず、二口目以降もその時の反応を撮る方法だ。カメラを止める場面はあっても、料理を元の状態に戻して食べ直すことを前提にしていない。本人は、無駄なく撮ることが完食にも臨場感にもつながると説明している。
五郎の心の声にも、現場での感想が生きている。店へ入る場面や基本の独り言には台本があり、中心となる料理も事前に決める。そのうえで、撮影の合間に松重が伝えた味の感想を脚本家が台詞に反映し、かむ時間に合わせて長さを調整していた。
食べる姿と、後から重なる心の声。段取りを整えた撮影の中に、その場で初めて味わう楽しさが残る。五郎の一口には、松重自身の空腹と実感が入っていた。



