『古畑任三郎』の事件は放送順に起きていない 向島巡査の名字を監督が確認した理由
『古畑任三郎』の向島巡査は、結婚や離婚に伴って名字が変わる。河野圭太監督によると、作中の事件の順序は放送順と同じではなく、三谷幸喜から台詞の相談を受けるたび、過去の脚本を確認することがあったという。

『古畑任三郎』に登場する向島巡査は、なかなか古畑に名前を覚えてもらえない。小林隆が演じるこの人物は、向島だけでなく東国原という名字でも登場する。単なる呼び間違いの笑いに見えて、その台詞を作る側には、物語の時間を確かめる作業があった。
シリーズを演出した河野圭太監督は、2023年6月に制作会社の公式サイトで公開されたインタビューで、事件が起きる順序を放送順と一致させない遊びを取り入れていたと説明している。放送された回を順に並べれば、そのまま古畑たちの年表になるとは限らないのだ。
向島巡査の名前を過去の脚本で照合
河野によると、向島巡査は結婚や離婚を繰り返し、それに伴って名字も変わる設定だった。そこに事件の順序の入れ替わりが重なるため、名前を間違えやすかったという。同じ人物への呼びかけでも、作中のどの時点なのかによって、使える台詞が変わってくる。
脚本を担当する三谷幸喜から、ある台詞を入れてよいかと電話で相談されるようになると、河野は以前の脚本を調べて確認した。自分で演出した回なら覚えていても、担当していない回までは記憶だけに頼れない。妻にも協力してもらい、脚本を探したことがあるそうだ。
河野は、三谷の脚本の世界を保ち、そのまま映像にすることを大切にしていたとも話している。ただ、現場で成立しない点は伝える。名前をめぐる確認も、面白い台詞を加えるだけで終わらせず、積み重なった設定とつなげるためのやり取りだった。
撮影の出発点も放送第1話とは違った
作中の時系列とは別に、撮影の順序にも意外な出発点がある。同年5月公開のインタビュー前編で河野は、最初に撮ったのは、古手川祐子がゲストの第3話だったと明かした。先に撮る予定だった監督とのスケジュール調整がつかず、自身の担当回から始まったという。
さらに、最初に完成していた脚本は、堺正章がゲストの第2話。実際に放送の幕開けを飾ったのは、中森明菜が出演する第1話だった。脚本ができた順番、撮影した順番、視聴者に届いた順番は、それぞれ違っていた。
そのうえで、登場人物が過ごす時間にはまた別の順序がある。向島巡査の名字ひとつにも、その時間が刻まれている。
